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教会の少女

名前に用いられる記号「・」と「=」の違いは?
ミドルネーム?セカンドネーム?ラストネーム?ファミリーネーム?洗礼名?それぞれ何が違うのか?
そもそも何故名や姓が複数あるのか?
それらの、ファンタジー作品で見かけるが日本人には馴染みが薄く実は良く分からないままにしていそうな、名前に関する事柄を実際の欧州の人名の構成及び日本における表記の習慣を元に、出来る限り簡易に説明します。

この記事は当ブログの別記事「カタカナ名前メーカー」に関連する記事として作成されていますが、単体の独立した記事としてお読み頂けます。

想定としてはライトノベルのいわゆる和製中世ヨーロッパ風ファンタジー作品を読み書きするのに、これくらいの知識があればとりあえず足りるのではなかろうか、と個人的な主観で考えるラインで執筆しています。
しかし、そも欧州と一口に言っても国も違えば言語も違い名前の風習も当然同じではありません。
時代によっても変化しますし、場合によっては国・言語・時代が同じであるにも拘らず地域によって違う事さえあります。
それらを事細かに説明すると文字数が何倍にもなりかねないので、この記事においては一部を除きそれらの最大公約数的な見解を取り、例外の多くもあえて割愛する事になります。

この記事においては氏名や苗字などと表記が揺れる事に対する混乱を少しでも軽減するために、日本語名の記述は「姓」+「名」=「名前」と統一して記述します。

1,ファーストネーム

ファーストネーム(First name)は日本語名で言う所の名に相当します。
文字通り一番最初に来る部分を指します。
親に与えられた名、と言う意味でギヴンネーム(Given name)とも言います。

2,ラストネーム

ラストネーム(Last name)は日本語名で言う所の姓に相当します。
こちらも文字通りに最後に来る部分を指します。
家族名と言う意味でファミリーネーム(Family name)とも言います。
一般的に、ファーストネームとラストネーム、またギヴンネームとファミリーネームがそれぞれ対になります。

3,ミドルネーム

ミドルネーム(Middle name)は現代の日本語名には相当するものはありません。
ファーストネームとラストネームの間に入ります。
ミドルネームを付けるのは、表音文字である欧米の言語では名の種類が少なく同名同姓が多くなりがちなためにバリエーションを増やすと言う実利的な理由と、誰かもしくは何かの名を残したいまたは夢や理想を仮託するなどと言った観念的な理由とに拠ります。
その付け方にはある程度のパターンがあるため、以下にそれを列挙します。

  1. 洗礼名を付ける
  2. 祖父母や特に縁の深い親族、または何かしらで功績を上げた祖先に敬意を表する形で名をあやかる
  3. 血縁関係がなくとも知人友人など両親が大変お世話になった人物の名からあやかる
  4. 歴史や神話上、何らかの創作物の人物名からあやかる
  5. 家系のしきたりで代々特定のミドルネームを付ける習慣がある
  6. E.とは逆にファーストネームが代々同じでミドルネームを区別のために別にするという例もある
  7. 結婚した際に旧姓を残す
  8. 母方もしくは父方の旧姓を引き継いで残す
  9. 先祖の旧姓を残す
  10. それ以外。響きが良いなど、特にこれと言った由来のない場合もある
上記の様に、ミドルネームは必ずしも日本語名における名であるとは限らず姓も含まれる事があります。

ミドルネームは必ず持っているとは限りませんし、逆に一つであるとも限りません。
上記の複数のパターンを組み合わせたより長いミドルネームを持つ事もありえます。
芸術家のパブロ・ピカソは聖人や縁者の名を多数あやかった非常に長いミドルネームを持つ事でも知られており、本人も全部を正確には覚えていなかったとも言われています。

余談になりますが、ミドルネームがあると日本ではかっこいいと思われる傾向にありますが、欧米でもミドルネームを持っている人物はより知的に見られると言う調査結果があり、その辺りの感覚は似ている様です。

いずれにせよ、多くの場合ミドルネームにはそれを付けるだけの理由があります。
作品を書くにせよゲームのキャラクターに名付けをするにせよ、ただなんとなくや雰囲気でミドルネームを付けるよりも、どんな理由や由来で名付けられたのかまできちんと考えた方がキャラクターに深みは出るはずです。

4,セカンドネーム

セカンドネーム(Second name)はファーストネームの次に来る名、ミドルネームの最初の名です。
つまりミドルネームを持たない場合はセカンドネームはありません。
ただしこれは国によっては解釈が変わり、ミドルネームを持たない場合はラストネームがセカンドネームであるとする場合もあります。

複数のミドルネームを持つ場合は、さらにサードネーム(Third name)、フォースネーム(Fourth name)...と続いていきます。

5,洗礼名

ミドルネームの項でも触れた、キリスト教徒のクリスチャンネーム(Christian name)の事です。
勘違いされがちですが、洗礼名は洗礼時に聖職者に授けてもらうものではありません。
幼ければ親に、自分で決められるならば自分で決め、その後にその名を持って洗礼を受けるのが通例です。
家系で代々同じ洗礼名を継ぐと言う事もあるようです。
一般的には聖人や天使の名を付けますが、稀に人名ではない聖書の語句から引用する事もあります。
またキリスト教徒でもプロテスタント諸派は聖人や天使崇拝をしない事も有り、洗礼名を持ちません。

ファンタジー作品ではキリスト教ではなくとも同様もしくは似た習慣が採用されている場合があるでしょう。
無論架空の宗教であれば聖職者に洗礼名を授けてもらう事もありえます。

6,称号

貴族や王族、その他の特別な地位にある場合は名前に称号が含まれる事があります。
例として、ドイツ語圏での称号の記述の仕方を見ていきます。
ドイツ系またはドイツ風の人物が出る作品、もしくは歴史上の人物で「○○(名)・フォン・△△(姓)」の様な名前を目にした事のある方も多いと思いますが、この「フォン」が貴族である事を表す称号に当たります。
「フォン」は元々はドイツ語の前置詞「~の、~出身」であり、姓を持たなかった時代に在地の領主が自分の領地名を名乗っていた事から、時代を経てこれ自体が貴族の称号として認識される様になったと言われています。
貴族の中でも爵位を持っている場合は「○○(名)・爵位(例:伯爵であればグラーフ)・フォン・△△(姓)」と「フォン」の前にさらに爵位を記述します。
なお、「フォン」の称号を「フォン・△△(姓)」のように姓として含むか省略してしまっても構わないのかはドイツ語においても表記が揺れているので、どちらでも間違いではないようです。

ドイツ語圏以外ではフランス語圏の「ド(例:シャルル・ド・ゴール)」も貴族の称号として用いられます(ただし「ド」が付く全員が貴族であるわけではありません)。
それとは別にオランダ語圏の「ファン」は、由来はドイツ語の「フォン」と同じですがこれは貴族の称号ではありません。

ファンタジー作品でも国や身分によりこれと似た、もしくは独自の称号を付ける慣習が採用されている場合があるでしょう。

7,複合名

複合名とは基本的にはファーストネームとセカンドネームの関係と同じで、パターンが少ない名に幅を持たせるために存在します。
ではこの複合名はファーストネームとセカンドネームとは何が違うのかと言うと、両方を合わせて一つの名として扱うため公式の場では通して呼ぶ方が望ましい、と言う点です。
あくまで望ましいであって、そうしなければいけないとまでは行かないようですが。
公式の場でなければ通して読む必要はありませんし、むしろどちらかの名または愛称などで呼ぶのが一般的です。
複合名の表記は日本語においては主に二つのパターンがあります。

一つ目は「○○(名)=□□(名)」となります。
例えば「フランツ=フェルディナンド」や「ホセ=マリア」などです。
なお、「=」はここでは等号、イコールの記号を使用していますが本来はこれはダブルハイフンと言う記号であり、等号ではありません。
ただ現在もなお2バイト文字でダブルハイフンを等号と明示的に区別して表示できる環境が少ないため、代替として習慣的に用いられています。

二つ目は「フランツフェルディナンド」や「ホセマリア」のように「=」が省略され、表記の上でも事実上一つの名になっている場合もあります。
こちらはその文化圏に馴染みが深くなければ一見しただけでは分からない事も多いかと思います。

どちらの表記方法にするかは名付けた人物次第です。

8,複合姓

複合姓はラストネーム(ファミリーネーム)を複数持つ場合の表記の方法で、結婚した際にあえて両家の姓を残す事を選択した場合などに使われます。
概ねにおいて家名の存続に強くこだわる、高い位と領地を持つ貴族や王族が用います。
複合姓も複合名と同様に公式の場では通して呼ぶ方が望ましいようです。

表記は「△△(姓)=××(姓)」となります。
例としては「ハプスブルク=ロートリンゲン」や「ブラウンシュヴァイク=リューネブルク」などです。

また現代においては国際結婚をした場合、両方のルーツを残すために複合姓にする事があります。
元テニスプレイヤーの「クルム伊達公子」の「クルム伊達」などがそれに当たります。

9,第一姓、第二姓

スペイン語圏で使われている姓の表記方法です。
第一姓は父方、第二姓は母方の姓を名乗ります。
子供は父親と母親の双方の第一姓を受け継ぎ、結婚しても姓は変わりません。
つまりスペイン語圏では夫婦及び子供の間でそれぞれ姓が違う事になります。
親が同じであれば兄弟姉妹は同じになりますが、再婚して連れ子がいる場合などに子供同士でも違う事はありえます。

表記は「△△(第一姓)・××(第二姓)」となります。
基本的には「=」は用いません。
例としては「フェルナンド・ホセ・トーレス(第一姓)・サンス(第二姓)」や「アンドレス・イニエスタ(第一姓)・ルハン(第二姓)」などです。

これも複合姓と同じく公式な場面では主に通して呼ばれるようですが、普段使いとしてはどちらかの姓のみを使用するのが一般的です。
父方の姓を名乗るか母方の姓を名乗るか、さらにはどちらでも好きなように呼んでもらうかは本人次第です。

スペイン語と極めて近い関係にあるポルトガル語も同様に第一姓、第二姓を持ちますが、細かい点ではかなり違うのでここでは割愛します。

10,名前に主に用いられる記号「・」と「=」の違い

「・」は中点、ナカテンと呼ばれる記号です。
名や姓をわかりやすく分けるために用いられます。

複合名の項目でも触れましたが、「=」はここでは等号、イコールの記号を使用していますが本来はこれはダブルハイフンと言う記号であり、等号ではありません。
ただ現在もなお2バイト文字でダブルハイフンを等号と明示的に区別して表示できる環境が少ないため、代替として習慣的に用いられています。
「=」は主に複合名や複合姓を表記する際に使われます。
別ではあるが実質一つである、と言う意味と捉えて良いと思います。

なお日本語におけるカタカナ名前表記の「・」及び「=」の使い方は習慣であって、こうでなければいけないという明示的な決まりがあるわけではありません。
一般的には「・」が用いられるところを全て「=」もしくは全く別の記号を用いていけない理由は別にないのです。
ただ、異なる表記をするならばそれなりに説明も必要になるので、分かりにくさや手間を省くために多くの作者もそれをそのまま使用しているのです。

11,まとめ

ここまでざっくり説明してきましたが、これらは概ねこういう傾向である、と言うだけに過ぎません。
例えばドイツ語圏における貴族称号の「フォン」は、ドイツ系国家の支配を受けた事がある非ドイツ語圏の領主や子孫が使っているという事もありえます。
このような例外は現実でもたくさんありますし、それぞれの作品世界で設定されているなら当然それらが優先されます。
冒頭にも記載しましたが数多くの語圏のそれぞれの名付けの風習を網羅する記事ではないので、省略したり割愛した部分も数多くあります。
この記事の記述と違うから間違っている、と言う事にはならない点はお気をつけ下さい。

いずれにせよ、今後ファンタジー作品を読むもしくは書く場合、今まで以上に名付けに注目してみるのも面白いかもしれません。